シンガポールで10回引越した私が語るシンガポール賃貸事情と賃貸裁判日記③

こんにちは、アジアリアン編集部です。

お待ちかねシンガポール賃貸事情と賃貸裁判日記第3弾です。

これまで第1弾ではストーリーを投稿してくれた女性読者の引越し暦(10回)を、第2弾では主に裁判沙汰になった家での出来事を、紹介してきました。

シンガポールで10回引越した私が語るシンガポール賃貸事情と賃貸裁判日記①

2018-08-18

シンガポールで10回引越した私が語るシンガポール賃貸事情と賃貸裁判日記②

2018-08-24

今回はこのシリーズの血肉ともいえる、裁判についての内容を紹介します。

人生初の小額訴訟と裁判

オーナー
メールに返信しない、或いはメッセージを無視するなら、修繕費に加え毎日$S43.34請求します

という脅迫メッセージを送りつけられたため、これは少額裁判所(Small Claims Tribunals)に連絡するしかない、と思い少額裁判所へ行ったあとの話です。

シンガポールの少額裁判所(Small Claims Tribunals)は、1 Havelock Roadにあります。最寄りはチャイナタウン駅です。

小額訴訟は協議費用が20ドル以下で済みました。訴訟側と被告側、両者とも弁護士が立ち会いできない個人と個人の協議になります。

得意でない英語資料作りに多くの同僚に助けてもらいました。

有難い事に友人の旦那様がちょうど退去したコンドミニアムの元家主とのSCT(小額裁判)が終わった直後だったので、英文書類の確認や文章の構成の仕方等を指導してくださいました。

資料はやりとりしたwhat upのメッセージも含めて、計57ページにものぼりました。

聴取当日

訴訟人と被告のヒアリング当日。

相手側の元家主は大遅刻をしてヒアリングがかなり遅れ、書記官に指摘されアタフタしていました。3部づつ用意するようにいわれた資料も用意し忘れたそうで書記官に怒られていました。

両者ヒヤリングを終え、持ち込みの資料を提出。交換し終了しました。元家主が提出した資料は薄かったです。実際あちらが主張できる事項は少ないので、それも仕方ないのかなと思いました。

協議当日

初めての協議という事で、念の為SCT(小額裁判)認可の通訳さんも雇うことにしました。金額は1協議でS$70ドル。

宣誓等の仕方を通訳さんに丁寧に教えて頂きました。

しかし協議が始まると、男性の引越し業者を入れた、 私が購入したトイレットペーパーのサイズが大きくホルダーを交換する羽目になった等、くだらない話しのオンパレードでした。

トイレットペーパーについては、ヒアリングで交換した資料にも書いてありましたが、実際のトイレットペーパーの写真を用意したり、本当に次元の低い協議でした。

そんな協議なので、難しい英語表現などは全く使わず、通訳さんはほとんど出番なし。「なんてバカな協議なんだろう?」と思って座って傍聴していたと思います。

裁判官の判決

最終的な裁判官からの判決は「家具搬入の際に傷ついたフロアの修繕費 、壁のペイント代金を含め、デポジットのS$1300から半分差し引く」というものでした。

デポジットの残額のS$650は2週間以内に私に返金する、ということでSCT(小額裁判)窓口で私の口座番号などの詳細を記入し終わりました。

通訳の方は出番がなかったので、通訳料をS$50にまけてくれました。

詐欺にあった相応の慰謝料的な物をもらいたい気分ですが、小額訴訟はあくまでも存在するお金のやり取りになるようです。デポジットの半分の返金は私にとって「勝訴」でした。

勝訴したのに…

SCT(少額裁判)には勝訴したものの、振込期限が過ぎても一切S$650が入金されません。勝訴した知人も振込がなく「職場に連絡する」といったら急いで入金があったそうです。

しかし私の場合は元家主に「会社に連絡する」と脅しても、「ご自由にどうぞ!」と言われてしまい、元家主の職場に連絡する事になりました。

職場は私の職場の横のビル。会社名や部署を調べ人事(HR)に電話で連絡する事にしました。電話したところ「資料を送付頂ければ社内で話しをしますので時間を下さい」との事でした。

協議後に発行された支払い用紙、および元家主の素行がわかるメッセージなど、SCT(少額裁判)に提出した事項も全て送りました。

しかし人事(HR)からのは「当人とも話しましたがプライベートな事なので関与できません」という返事ばかりでした。金額の問題というより、そういう逃げ道があるという事に腹が立ちました。

SCT(少額裁判)の無料弁護相談にも参加しましたが、親身には聞いてくれましたが前に進みませんでした。というのは大抵は職場に連絡した時点で支払いがされる場合が多いからだそうです。

そして「大人しい日本人だから舐められてる」というように聞こえて腹の虫がどうしても収まらず、最終手段に出ようと決意しました。

最終手段=裁判

次のアクションに進もうと決めSCT(少額裁判)ではなく「裁判」をすることにしました。具体的な次のステップとしては以下の何れかです。

  • ① 家内の家具等の差し押さえ
  • ② 給料の差し押さえ
  • ③ 銀行口座凍結/差し押さえ

裁判所で話を聞いたところ、「③銀行口座凍結が、手続きの中ではやりやすいのでは?」とのこと。

「① 家内の家具等の差し押さえ」は、お金になりそうな家具などはないので不可。

「② 給料の差し押さえ」について、シンガポールでは給料から天引きされる、日本で言うところの年金のような「CPF(Central Provident Fund=中央積立基金)」というものがあるので、これを差し押さえるのも難しい。

残された手段は「③ 銀行口座凍結」だったわけです。

複雑な手続きに悪戦苦闘

実際には10円禿げができたわけではありませんが、それぐらいストレスがたまる大変な手続きでした。

思えば日本でも裁判の経験がなかったのに、裁判デビューをシンガポールで飾るなんて…。

裁判をするには当然まず裁判所に依頼する必要があるのですが、その後は裁判所が委託している「Crimson Logic Service」という会社で様々な手続きを必要があります。

その手続に毎回10数ドル、20数ドルの費用が掛かります。そしてその手続きが受理されると、裁判所に戻りまた別の手続きをします。

銀行口座の差し押さえをするためにも、裁判所と「Crimson Logic Service」を何度も行き来し、裁判所職員と一緒に凍結手続きの書類を持ち銀行に向かいました。その際の往復のタクシー代金も自己負担です。

何度もそんなやり取りがあった後、最終は元家主宅の玄関に裁判所職員と張り紙をしに行きました。

ベルを押しても不在だったので、事前に用意していた両面テープの貼られたA4のクリアファイルごと玄関のドアに貼りました。裁判書への出廷命令の紙でした。

裁判所での聴取&裁判

そして淡々と手続きを進めていくなかで、私と書記官のみのヒアリングもあり、待合室で待っていました。

周りの光景は私以外はみんな男女ともだいたい黒や濃い目のスーツ着た弁護士さんらしき人のみ。

その人たちは私を見て「何故こんな所に一般人が紛れている?」という不思議な目で見ていました。ここは本物の裁判所で、行われる裁判も「弁護士」対「弁護士」のケースばかりだったです。

私の場合は裁判費用を払うと、5倍ぐらいの大赤字になるので、裁判所で教えてもらったまま手続きをしていました。何もわからず本当に面倒な手続きでした。

ヒアリングの書記官女性は、いかにもキャリアウーマンな面持ちで英語も流暢なアメリカ訛り。しかも早口な上に専門用語も混ざっているので、何を言っているのかサッパリ分かりませんでした。そのため何度も聞き返しました。

思えばSCT(少額裁判)の裁判官や書記官は、ゆっくりしたシングリッシュ訛りで、私に合わせて喋ってくれている優しさがあったのかな、とこの時はじめて思いました。

サッパリ分からなくてもヒアリングはとりあえず終了。次のアクションに進む為、裁判所の カウンターに戻りました。

裁判本番

再び裁判所と「Crimson Logic Service」の行き来をによる手続きを繰り返し、最終裁判が始まりました。

前回のヒヤリングでは、流暢なアメリカ訛りの書記官でサッパリ理解できなかったので、今回もSCTの時と同じ通訳の方にお願いしました。流石に今回は元家主も30分前に待合室に待機してました。

銀行の口座凍結作戦は、やや想定内でしたが元家主の口座には残額S$316しかなく、その金額の差し押さえになりました。

銀行より差し押さえ手数料のS$150を引かれ、返金金額はS$166。加えて私の諸経費のS$316.42を入れたら明らかに赤字です。

最後に…

金額は赤字でしたが、制裁を下せたので気持ちはすっきり。これで終わったんだという安堵感でいっぱいでした。

しかし、これだけ複雑で、更にお金も掛かる事が初めから分かっていたら、多分やらなかっただろうな…と思いました。

最初から元家主が、デポジットもきちんと返してくれれば、あんな脅迫もなく、こんな事もせず済んだのに。嫌な事しかなかったですが、今後のための人生の勉強であったと思うようにしています。

シンガポールではこういったトラブルは本当に多いです。

駐在等で会社契約の賃貸をしてる場合は、SCTをしているような時間はなく、ほとんどの場合は会社側がデポジットなどを払ったまま終わるそうです。

私の周りにもSCTで協議したという人が数人います。

「今まですごく感じのいい家主で日本の話などしていたのに、退去する時にデポジットを返してもらえなくて、なんとも悲しい気分になった、人としてどうなのか」という感想をもらしていた人が多かったです。

私の元家主も初めて会った時は、こんな馬鹿な事をいう人間には見えなかったです。それぐらいにSCTでの協議内容が、ありえないぐらいに低次元だったんですよね。

元家主も私というテナントを失い、僅かではありますが入ってくるであろう家賃収入もなくなり、プランも狂ったでしょう。

一連の流れのなかで「家賃収入が入ってこなくなった事に対して訴えてやる!」と言われましたが、同案件での扱いは出来ず、この件で家主側に勝ち目はないと思います。

私の同僚が「こんな元家主みたいな生き方をしてると、必ず自分にそのまま返ってくるから大丈夫だよ!」と言ってくれました。その通りだと思います。

2016年の5月から始まり10月末まで掛かったSCT(少額裁判)と長い裁判の生活。少しでも参考になれば良いなと思いシェアさせて頂きました。